奥泉光 『シューマンの指』

今日の一冊
10 /25 2010
少し前から話題になっている、奥泉光さんの『シューマンの指』。
音大生や音楽家を主人公にしたドラマやマンガは
イマイチ違和感を感じるものが多くて、
今回もミステリーかぁ、と思い読んでいなかったのですが、
この間藝大の先生たちが「かなりシューマンのことを勉強して書かれた本だ」
と話しているのを聞いて急遽買ってみました

…最後まであっという間に読んでしまいました。
結論から言うと、とてもよかったです。

まず読み物として、とても面白い。
物語は絶えず謎めいた、不吉な雰囲気の中進むのですが、
胸騒ぎをずっと感じながら、主人公と一緒に記憶の森の中へ分け入っていくような
切迫感で一気に最後まで読んでしまします。
そして、それまで読んできたことがガラガラと崩れてしまうような衝撃のラスト。

実は読む前から、この作品が「衝撃の結末」を迎えるということは
読者レビューを見て知っていたので、「衝撃のラスト」って知ってたら
衝撃にならないじゃん、と内心思いながら読み進めていたのですが、
それでも衝撃を受けました。
だからここで私が「衝撃のラスト」と書いていても、大丈夫、
きっとみなさんも衝撃を感じます

そして、この小説が独特な幻想性を持っているのはやはり
シューマンの音楽に依るところが大きいのではないかと思います。
作者がシューマンが大好きで、かなり詳しいのは確か。
小説の中にも、「幻想曲」、「森の情景」、「ピアノソナタ第3番」
などが物語の重要な場面に登場しますが、
かなり的確に、そしてイマジネーションを持って音楽が描写されています。
専門的なことも書かれているので、全くクラシック音楽やシューマンを
知らない人にとってはなんだかよく分からない部分も
あるかもしれないですが、
少しでもシューマンを知っている人なら楽しめると思います。
聴いたことのない曲でも、ここに書かれた曲の解説を道しるべに
曲を聴いてみればきっと解釈の幅が広がるのではないでしょうか。

私は必ずしも、ここに書いてあるシューマンの解釈の全てに
賛成なわけではないですが、
でも、シューマンの精神のどこかに巣食っていたはずの危険な予兆や、
ロマン派文学の持つ蒼白い炎のようなものが小説全体に香っていて、
ひとつの作世界として完結しています。
また、謎解きとしての面白さ、青春の苦しさ、
そしてシューマンの音楽の持つ憧憬の力みたいのものが
3つがっちりと手を組んだ秀逸な作品です。

ただこれを読んで、シューマンの作品全てがどこか病的だと
思われてしまうと悲しいのですが、これがとっかかりとなって
もっとたくさんの人にシューマンの作品を知っていただければと思います

yukarigoto

ピアニスト後藤友香理のブログです。
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